朝の気配に、渡辺は目を覚ました。

ベットの傍らに椅子を置き、朱夏の手を握っているうちに眠ってしまったらしい。
すやすやと眠り続けている朱夏の寝顔に、言い知れぬほどの安らぎを覚えつつ、渡辺は静かに立ち上がった。

目覚めたとき、この姿のまま部屋にいては、眠らずに側にいたのかと朱夏は心配してしまう。
一晩二晩眠らずとも堪える事などない頑丈な体だが、朱夏を心配させたくはなかった。
自分のことよりも、まずは人を先に心配してしまうその優しさに、いつも涙が溢れそうになる。

カラスがいたという窓越しに、陽が登り始めた空を見て、渡辺は髪を掻き毟った。


何か。
夢を見たな。
何かを言われたのだが。
なんだ?


先代当主、朱夏の祖父が夢に現れ、渡辺に何かを言っていたような気がするのだが、その言葉を思い出せずに、渡辺は髪を掻き毟るしかなかった。
過去にも二度。
先代当主が夢に現れたことがあった。