今まで話をしていたあの青年が、本当にあのときの青年なのだとしたら、確かに、彼は人ではなく、我と同じ人成らざる者だろうと、青嵐は思った。


本当に。
あのときの者なのだろうか?


そんな疑問を覚えつつ、だが、自分に背を向け歩いたあの時に放たれていた気は、人の放つものではなかったと青嵐は思い返した。
無防備を装いながらも、向けられたその背には微塵の隙もなかった。彼が人だとしたら、あの老人ですら或いは敵えぬ術者を予感させる気だった。
聞いた話が真実ならば、もとかしたら、我よりも長き時を生きている者かもしれないなと、時折、センの目に浮かんでいた孤独な陰を見て、青嵐はそう直感した。

センと名乗ったその名は、真実(まこと)の名ではないだろう。
名を奪われているのだろうか。
そんなことを思いつつ、しかしと首を傾げる。
名を奪われ、術者の使役鬼となったにしては、彼はあまりにも自由な空気を纏っていた。
術者に支配されているという感は全くなかった。

不思議なヤツだなと、青嵐は息を吐きつつ、机の上の煙草に手を伸ばした。