センは白み始めた東の空を、カーテンを引いた窓越しにぼんやり眺めた。
最近はあまり思い出すこともなかった、あの年寄りと過ごした懐かしい日々を、ぼんやりしながら思い出していた。


そういや。
爺さんが死んだのも。
こんな朝方だったな。


闇を払うような白き朝日に、まるでその命が飲み込まれていくかのように、静かに死んだなと、はるか昔のことを、センを思い出した。


人として生まれたが、人に討たれ、やがて鬼に転じた自分を拾った、かなりの変わり者だった。


『わしの業は深いぞ。親しき者の命を奪う』
『お前。死にたいのなら、わしに仕えてみるがよい』


自分を祓う力を持ちながら、牙を剥く自分に簡単に背を向けて、かかかっと高笑いしながら歩き出したあの年寄りが、何故か妙に気になって、喰うのはいつでもできると自分に言い聞かせ、後を追ったのが運の尽きだった。


油断した。
うっかり。
油断しちまった。
あの笑い声に騙された。
気づいたら。
このオレ様が。
子分にされちまっていたもんな。
クソ爺メ。


そんな悪態を吐いてはみたが、何故か、あの年寄りを嫌うことがセンにはできなかったむ。
その年寄りと過ごした、命がけの楽しい時間を、センは朝焼けの空を見つめつつ懐かしんだ。