一願

考えている青嵐の耳に、センの忍び笑いが聞こえた。

「あんたは賢いのか空けなのか、マジで判らねえな」

くすりくすりと笑いながら、見た目だけなら年下に見える青年が、深い慈愛の色を浮かべた目をして、青嵐を見つめていた。

「二階の空いてる部屋、好きに使えよ。ウチには時々、屋敷の連中が来るぜ。朱夏ちゃんも、二回だけ、来たことがあるよ」
「いいのか？」

あの老人の血筋の者たちの許しがなくて。
そう続けた言葉に、センは笑った。

「頼まれた仕事はすることがあるけどな、基本、あいつらを困らせるようなことさえしなけりゃな、俺は放っておかれているんだ」

気にすることはないさと笑うセンに、青嵐はしばし考え込んだ。

「悪さするなよな」
「悪さ？」
「俺を食おうなんて、考えるなよ」

にたりと、悪戯っぽい笑みを浮かべるその顔に、青嵐は鼻を鳴らした。

「これでも舌は肥えているんだ。わざわざ不味い肉など食わん」
「何を言ってやがるっ　そんじょそこらの女子どもより、かなり旨いぞ。俺はっ」

喚くその声に、一体何を自慢しているんだと呆れつつも、青嵐は久しぶりに声をあげて笑った。