一願

「命を削っているとは知らないだろうよ。第一、一緒に暮らしてもいないんだ。人の先を視たあとの、あの子の疲労ぶりなんて、気づいてもいないだろうさ、あの子の親は。あの子の命を金をして、暮らしているのさ。遠い地でな」

最後は吐き捨てるように締めくくられた言葉には、嘆きと怒りが籠もっていた。
見たこともない、あの少女の二親を青嵐は考えた。
さぞかし、腐りきった不味い肉だろうと思いつつ、食い殺してきてしまおうかとさえ、青嵐は考えた。


二度と、人は食わぬ。


かつて。
ただ一つの願いのために、そう誓いを立てたが、その誓いを破ってでも、青嵐は朱夏を守ってやりたかった。
いや、もう、その願いは半ば叶っている。
その行く末を見守ることができずとも、朱夏を苦しめる存在をこの世から消し去ってやりたいと、そう思った。

「食い殺したりするなよ。そんな親でも、あの子は大好きなんだ。死ねば泣くぞ」

青嵐のその憎悪を見抜いたように、センは笑う声で青嵐を窘めた。
あの子を悲しませるなと、センは言い諭した。

「あの子は信じているんだ。きっと、いつか、また一緒に暮らせるってな」

だから、殺すなと言われ、青嵐はそうかと頷いた。