男が女学生から聞いた話では、年のころは十を過ぎたくらいの少女らしい。
何故か、共に暮らす父母の姿は屋敷にはなく、数人の使用人と幼い少女が、ここで密やかに暮らしているのだと、女学生が聞き集めてきた情報を男に伝えた。
少女は生まれつき体が弱く、屋敷の外に出たことなどないかもしれないと、男の腕に抱きすくめられた女学生は、うっとりとした目で男を見つめながら、まるで愛の言葉を囁くような口ぶりで、男に調べてくるよう命じられたことを語り続けた。

男を見つめるその目はとろりと緩み、何か暗示に掛けられているような、そんな様子を見せていた。

男の腕に身を委ね、男から与えられる歓喜の悦びに喘ぎ悶えて、火照る柔らかな肢体から放たれる、とろりとした甘やかさを持つ匂いは、男にとっては極上の糧だった。

本当は、人そのものが男にとっては最上の糧だった。
この甘い匂いを放つ肢体ならば、その肉はどれほどの美味なる味がするだろうかと、考えるだけで喉がなった。

けれど、男は誓いを立てた。

はるか昔。
たった一つの願いを叶えるために。
誓いを立てた。

二度と。
人は喰らわぬと。

そう誓いを立てた。

ようやく、その願いが叶うやもしれないのだ、だから、堪えろと、男はそう自分を戒めた。

せめて生ある間は、普通に日常生活を過ごすことができるくらいには、その生気を残してやろうと、首に唇を押し当てて女学生から貪る生気は、必要最低限の量に男は留めていた。
自分の糧として選ばれたが為に、おそらくは短い生涯で終るであろう者へ施した、男にとってはそれは最大限に情けだった。