静かな屋敷だった。

あの夜、忍び込んだあの屋敷には、あの老人と、センの名乗ったこの青年しかいなかった。
災に巻き込まれるよう、家人はどこかに追いやっているのだろうと、青嵐は思っていた。
だが、センの言葉はそうではないと青嵐に教えた。

あの静まり返った屋敷は、そういうことだったのかと、長き時を経て、青嵐は理解した。

「俺も死ねるかと思ったが、爺さんのその深い業を持ってしても、俺の命は奪えなかったらしい」

おどけた口調で、センはそんなことを青嵐に聞かせる。
この命は、よほど、生き汚い命らしいよと、ケラケラと笑った。
だが、その目は暗い。
闇よりも、深く暗かった。

「一緒にいれば、死ねるかもしれないぞと、そんな調子のいいことを言って、散々、人を好き放題にこき使ったくせに。クソ爺め」

それは、青嵐に聞かせているというよりも、記憶の中の老人に対しての悪態のような、そんな言葉だった。


この者もまた。
死に場所を求めているのか。


青嵐は目の前で、暗き笑みを湛える青年を、静かに見つめた。