人の姿をしていれば、人に紛れることは容易い。
だが、人ではないものが、人らしい生活していく場を手に入れるのは容易ではない。
一つの場所に、変わらぬ姿で暮らし続けていては怪しまれる。
長き生の中で、青嵐はそれを知っている。
だから、腹が減らぬ間は、人が滅多に踏み入ることのない山に引きこもっている。
余計な詮索を避けるため、山奥に潜み暮らしてきた。
そして、ときどき、人里に出た。
人の暮らしは変わっていく。
青嵐にとっては、一寝入りしたていどの時間でも、人の世が変わるには十分過ぎる時間だ。
言葉遣い一つとっても、一寝入りする前は、当たり前に使われていた言葉が、全く通じなくなっていることもあった。
だから、自分と同じくらいは生きているという青年の暮らしに興味がわいた。

青嵐の疑問に、まあ、いろいろとツテがあってねと、センは青嵐に答えた。
淡々としたその声には、ある種の悟りめいた色があった。

「俺はね。あの爺さんとの契約がまだ続いているんだ。最後の命が有効でね。だから、爺さんの血を引く者からね、いろいろと便宜を図って貰えるんだ」

まあ、その分、あいつらからの仕事も請けなきゃならないんだけどさ。
センの説明を聞きながら、なるほどなと青嵐も納得した。
人の加護があるならば、異形の者も人の中で人らしい暮らしを営んでいけるだろうと、納得した。