「朱夏ちゃん、連れ去る気はないんだろ?」
「ああ。いい屋敷だ。気が綺麗で澄んでいた。あの子には、あそこが気が一番いいだろう」
「判るんだ。そういうの?」

それくらいのことは判る。
青嵐は正体の判らないセンという青年の飄々とした態度に、小さく息を吐きながら、その言葉にそう答えた。
センは青嵐の言葉に、うんうんと何度も頭を縦に振り頷いた。

「そうなんだよね。朱夏ちゃんには、外はきついんだ。いろいろと」

だから、もし、あんたが朱夏ちゃんを連れ出そうとしたら、俺は止めなきゃならなかったんだと、センは肩を竦めて笑う。
どういう意味だろうと問い詰めようとして、開きかけた口を青嵐は閉じた。
聞いたところで、こちらの望む答えは返ってはこないだろうと、そう判断した。
センも青嵐の表情から、青嵐のその疑問は察したようだが、あくまでも自分のペースで喋り続けた。

「あんた、あの女も、喰うつもりないんだろ?」
「ああ。だが、長くは生きられんぞ、あの女」
「そこは、まあー。いいんじゃないの。お陰で、普通の女じゃ味わうことのできないような、極楽気分をたっぷり味わっているんだろうからさ」

そこまで、俺が同情してやらなきゃならない理由はないよと、センは肩を竦めて笑った。

「なあ。とりあえず、座らね? 話しづらいんだけど」
「この家は、どうやって手に入れんだ?」

センの言葉など聞こえていないかのように、男はそう問いかけた。