「なあ。ここまで来て、そんな警戒するなよ。まあ、座れって」

ああ、営業時間じゃないからペットボトルの茶で勘弁な。
センと名乗った青年は、笑いながらそう言って、饅頭を盛った皿と緑茶の入ったペットボトルをテーブルに置くと、イスに深々と腰掛けた。

ペットボトルと言われても、なんのことか青嵐には判らなかったが、そんなことはどうでもいいと切り捨てた。

朱夏の暮らす屋敷の程近くにある小さな一軒家が住処なのだとそう言って、センは家の中に青嵐を招き入れた。

確か、女学生がカフェと呼んでいる店だったなと、青嵐はここ数日で頭の中に詰め込んだ町の情報を引き出した。

「お前の、家、なのか?」

センからは少し離れた場所で、青嵐は壁に寄りかかり立ったままだった。

「そうだよ。そう言ってるだろ」
「ここは、……カフェと言うのだろう?」
「その通り。よく知ってるな」
「……女学生から、聞いた」
「じょ、女学生?!」

その言葉に、センは喉を仰け反らせて笑い転げた。

「まあ、間違っちゃいないけど。今の時代なら女子高生くらい言いなよ。見た目が爺なら違和感ないけどさ。あんたの成りで、その言葉遣いは今時は変人扱いされて目立っちまうよ」
「ジョシコウセイ? なるほど。そういう呼び方をされるのか、今は」

そうかと、真面目な顔で頷く青嵐に、こりゃ、大変だなとセンは鼻先でくすりと笑った。