「あのさ。立ち話もなんだしさ。お茶しねえ? 俺のとこで。甘い饅頭があるからさ、一緒に食おうぜ。つうか。あんたは酒のほうがいいか?」

酒のつまみ、なんかあったかなあ。
惚けた口調でそんなことを言いながら、男の返事も待たずに青年は歩き出した。

「おい」
「あんた、どうせ、まだ住む家も用意してないんだろ。ひとまず、ウチに来いよ。あの屋敷にいた朱夏ちゃんのことも、いろいろ聞きたいだろ。知ってること、教えてやるよ」

そんな事を一方的に喋り続けているその姿が、また闇に溶け込みそうになる手前。

青年は、また背後を振り返って男を見た。

「来いよ。青嵐(セイラン)」

饅頭食いながら、昔話でもしようぜ。
また、くつくつと楽しそうに笑う青年に、青嵐と呼ばれた男は、一つ、息を吐き出して、その後に続いた。

「お前の名は?」

その背に向かい問いかけると、青年は、んーと唸るような声をあげ髪をガシガシと掻いた後、「とりあえず、センくんとでも呼んでくれ」と真面目な声で答えた。