「なら、どうして、あの子のとこに行ったんだよ」
「……爪の朱い少女が屋敷にいると、そう聞いた」

ああ、なるほどと、青年はその言葉に頷いた。

朱色の爪は、確かに、シュカの名を持ち生きる少女に現れる身体的特徴だ。
それを聞いたから、あの屋敷の少女をシュカと思ったのだと言う男の言葉には、納得したと頷けるものがあった。

「そうか。名前は聞いてなかったのか。そうだよ。シュカというのがあの子の名だよ。但し、シュカのカは花じゃないんだ。夏だ。夏」

おそらく、男は思い違いをしているであろうと踏んだ青年は、その違いを言葉にして告げた。

「夏?」
「そう。オニさんの知ってるシュカは、朱い花と書く朱花だろう」

にたりと笑うその顔に、男はその形相をまた険しくした。
くぅっと、その目を細くする。


何故。
その名を知っている?
何者なんだ。
こいつは。


いっそうの警戒を強め、男は青年と間合いを詰めていく。
場合に寄ったら、ここで殺さなくてはならない相手だと、男は青年を見すくめる。

朱花の名を知っている時点で、ただ者ではないことは、確定した。
それは、歴史に刻まれた名ではない。
人に省みられることもなく、無残に散らされた者の名だ。
その名を、今のこの世で口にする者が、ただの人であるはずがなかった。


生かしておくか。
殺めるか。


男はまんじりともせずに、その二択の答え、どちらを選ぶべきかを考えた。