「シュカ……」

その言葉を口にしたとたん、男はその胸を懐かしさに焦がした。

「朱花というのか、あの子は」

かすかに震える声で、男は改めて青年にそう尋ねた。

女学生もその名までは知らず、先の逢瀬で、少女に名を尋ね損ねたことに今更になって気づき、男は少しばかり悔やんでいたところだった。


朱花。
朱花。
朱花。
朱花。
やはり、お前だ。
朱花。


愛しきあの者の名を、胸のうちで繰り返し、再会を果たしてきた白い幼子の顔を思い浮かべて、男の胸は張り裂けそうなほどの歓喜を湛えた。

懐かしき微笑みが。
懐かしき声が。
小さな足が。
細い指が。
男の胸に蘇った。


朱花。
お前なのだな。


男は目の前の青年のことすら忘れたように、胸の中に住んでいる愛しき者に見つめ、微笑んだ。

「えー?! オニさん。まさか、あの子の名前も知らなかったの?」

感慨に耽る男など気にも止めず、驚く男の声に、青年のほうが呆れ驚いたという顔になる、なんだかなあと肩を竦めた。