ふと。
窓を見て。

渡辺は眉を潜めた。

鍵の掛け方が、自分のそれとは違っていた。
誰かがこの窓を開けたのだということは、渡辺にも判った。
それはおそらく朱夏だろうが、何故、こんな時間に朱夏は窓を開けたのか。

その理由が判らなかった。

朱夏は高いところが、少し苦手だった。
だから、テラスに食べ残したバンを置くことはあっても、そこに出ることはまずない。


そう言えば。
部屋が、
妙にひんやりしていたな。


呼び鈴の音に飛び起きて、他にもその音に目覚めた者たちに、自分が行くと言い差して、渡辺は急ぎこの部屋に来た。

入った瞬間の、その冷たかった空気を思い出して、渡辺は訝しがった。


暑くて。
窓を開けたのか?
朱夏さまが?


夏でも長袖の服でないと、朱夏は寒いと言う。
そんな寒がりの朱夏が、夜に窓を開けたまま休むなどあるだろうかと、渡辺は考えた。

ますますもって不可解なことだなと、渡辺は首を傾げながら、それでも、明日、それを問いただしたところで、おさらく朱夏も首を傾げるだけだろうと渡辺は思い、まあ、いいかと言いながら、鍵を掛け直した。