朱夏の寝息を聞きながら、渡辺はその額に手を当てた。


熱はなさそうだな。


足りない睡眠で朱夏が体調を崩しはしないかと、渡辺はそれだけが心配だった。

もとより弱い体は、ここ数日の暑さと仕事で参っているはずだ。
食欲も落ちている。
仕事のあとは、蹲り動けなくなっていることもあった。

それが判っているだけに、渡辺はその小さな身が案じられてならない。

明日はゆっくりと休ませやりたいと思っているが、ふいの来客がないとも限らない。


娘への関心などもないくせに。
客だけは。
欲にまみれた客だけは。
せっせと寄越しやがって。


朱夏を省みない朱夏の両親が、渡辺は好きではなかった。

いや、憎い。

渡辺の家は、先祖代々、この家に仕えてきた。
父も、母も、兄も、妹も。
祖父も、祖母も。
縁者と呼ぶべき者全てが、この家に仕えている。

けれど、渡辺の家から朱夏とともにこの地にきたのは、自分だけだった。
あんな娘に仕えたところでしょうがないだろうと、兄はその同行を止めたけれど、自分は朱夏に仕えたいと思った。