一願

「うん。お休みする。あのね、……そばにいてくれる？」
「もちろんです。朝までだって、お側にいますよ」
「ねむるまでで、いいの」

ワタナベもお休みしないとおねつがでちゃうもんとそう言って、自分の案じる朱夏に、じんわりと熱いものが渡辺の目に込み上げてきた。

こんな優しい少女が。
どうして、こんなふうに、一人寂しい夜を過ごさなければならないのか。
そう思うと、渡辺は神さえも呪ってやりたくなった。

「私は大丈夫ですよ」
「おとなだから？　カラスさんがそう言ってたの」

朱夏も大人になれば、おねつがでなくなるのかなあ。
珍しく、黒い男の言った言葉を思い出せた朱夏は、だったら早く大人になりたいなあと、そんなことを思いながら、髪を梳いてくれる渡辺の手の心地よさに、やがて静かに眠りに落ちた。


明日も。
天気がいいようだから。
朝食は庭に用意してあげよう。
少しでも。
陽に当たらせてあげないとな。
鴉などではなく。
庭の木々に止まっている。
可愛いらしい小鳥たちを見せてあげよう。


普段から血の気のない、朱夏の白い顔を渡辺は思い出す。

天気のいい日くらい、庭で陽射しを浴びながら、のんびりと楽しく過ごさせてやろうと、渡辺は思った。
紫陽花が綺麗に咲いている裏庭を思い出し、部屋に飾る花を朱夏に摘ませてあげようと、そんなことも考えた。