「朱夏(しゅか)さま。どうしました?」
すらりとした長身で、年のころは二十歳を四つか五つ過ぎたくらいだろう。
精悍で男らしい顔立ちは、町に出る注目の的になるんですよと、誰かが楽しそうに教えてくれたことがあった。
その容姿と知性に目をつけた有力者たちから、最近は見合いの話がいつも舞い込んでくるらしい。
けれど、そのどれをも渡辺は断ってしまうと、時々、屋敷に顔を見せる父母が困ったように話しているのを、朱夏も聞いたことがあった。
日中はよほどのことがない限り、渡辺は朱夏の側を離れない。
いつでも細身の黒いスーツにその身を包んでいた。
細い体躯ながら、武芸に秀でた彼のことを、陰で番犬、忠犬などど言い、面白おかしく笑う者たちもいる。
けれど、屋敷から出られない朱夏にとっては、数少ない大切な話し相手で遊び相手で、朱夏に絶対の安心と安全を約束してくれる、守り神のような存在だった。
普段のスーツ姿と違うチェックのシャツにコットンパンツというラフな服装の渡辺を見て、朱夏はごめんなさいとそう告げて、布団の中で小さくなった。
きっと、ぐっすりと眠っていたに違いない。その彼をこんな時間に起こしてしまったと、そう思うと朱夏の小さな胸の中は、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
やっばり呼ぶんじゃなかったと、そんな後悔に苛まれる。
「謝る必要などありませんよ」
朱夏の心中を察して、渡辺は傅くように膝を折り、身を屈めて朱夏の顔を覗きこんだ。
優しく、どこまでも優しく。
微笑む渡辺のその顔に、朱夏の心が落ち着いていく。
すらりとした長身で、年のころは二十歳を四つか五つ過ぎたくらいだろう。
精悍で男らしい顔立ちは、町に出る注目の的になるんですよと、誰かが楽しそうに教えてくれたことがあった。
その容姿と知性に目をつけた有力者たちから、最近は見合いの話がいつも舞い込んでくるらしい。
けれど、そのどれをも渡辺は断ってしまうと、時々、屋敷に顔を見せる父母が困ったように話しているのを、朱夏も聞いたことがあった。
日中はよほどのことがない限り、渡辺は朱夏の側を離れない。
いつでも細身の黒いスーツにその身を包んでいた。
細い体躯ながら、武芸に秀でた彼のことを、陰で番犬、忠犬などど言い、面白おかしく笑う者たちもいる。
けれど、屋敷から出られない朱夏にとっては、数少ない大切な話し相手で遊び相手で、朱夏に絶対の安心と安全を約束してくれる、守り神のような存在だった。
普段のスーツ姿と違うチェックのシャツにコットンパンツというラフな服装の渡辺を見て、朱夏はごめんなさいとそう告げて、布団の中で小さくなった。
きっと、ぐっすりと眠っていたに違いない。その彼をこんな時間に起こしてしまったと、そう思うと朱夏の小さな胸の中は、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。
やっばり呼ぶんじゃなかったと、そんな後悔に苛まれる。
「謝る必要などありませんよ」
朱夏の心中を察して、渡辺は傅くように膝を折り、身を屈めて朱夏の顔を覗きこんだ。
優しく、どこまでも優しく。
微笑む渡辺のその顔に、朱夏の心が落ち着いていく。


