初めて会ったはずなのに、でも、初めて会った気がしない真っ黒の男のことが、少女は気にかかって仕方がなかった。


どこかで。
あったことがある人かなあ。


小さな頭を悩ませて、必至に思い出そうとしたが、無駄なことだと少女は諦めた。

額に手を当てる。
そこに触れた男のその唇は、冷たかった。
氷のように、ひんやりと冷たかった。
人らしい温かな体温など、全くなかった。
けれど、何か温かいものに触れたような気がした。
だからこそ、不思議と怖いとは思わなかった。
何故か、清々しくて心が落ち着く森の匂いがした。
だからこそ、また会いたいと思ってしまった。
少女はなんと呼べばよいのか判らない、自分のそんな気持ちに戸惑い、そして持て余し、ただため息を吐いた。


もし、あれが夢でないのならば。
おそらく、あの真っ黒の男は人ではないのだろうと、少女は思った。
人ならば、あんなふうに出て行くことなどできないはずだと、その小さな頭で考えて、それから、いいなあと呟いた。