少女は、静かに体を横たえて、その目を閉じる。

ちゃんと休まないと、自分の体は持たないことを、少女も判っていた。
けれど、妙に胸が高鳴って、すぐに眠れそうになかった。

不思議と怖くはなかった。

見知らぬ男だろう。
そう思うのだが、少女にはその確信がもてない。

過去を記憶しておくことが、少女は殊の外、苦手だった。
多分、それは、生まれ持った不思議な力のせいだろうと、大人たちは言った。
そのせいで、何度も会っているはずの人に、はじめましてと挨拶してしまうこともよくあった。
少女をよく知る者たちは、そんなことなど気にも留めずにいてくれているが、時に、忘れられていることに悲しそうな顔をする者もあり、そんな顔を見ると、少女もいつも申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

真っ黒の男に怖さは全く感じなかった。
それどころか、不思議と、懐かしいものを感じていた。


もしかしたら、
まえに会っているのかなあ。


だとしたら、真っ黒の男にも申し訳ないことをしてしまったと、少女は肩を落とすようにして小さく息を吐いた。

こんなとき、過去のことをはっきりと覚えていられない自分が、少女は少しだけ嫌になった。