新月の夜。

草木も眠ると言われる時刻の夜道は、深く暗い闇に包まれ、静まり返っていた。

人の気配はもちろんのこと。
生あるものの気配すらない、静かな暗闇だった。

住宅地からやや外れた場所に、その大きな屋敷はあった。
周囲を木々に囲まれた、静かな場所だった。
空気が綺麗に澄んでいる。
"清らかな気"を感じさせる場所だった。
その静かに場所に、ぼつんと、西洋風の大きな屋敷があった。

足音一つ響かせず、男はその屋敷に忍び込んで、ある部屋を見つめた。


二階。
東の角部屋。


睦言の合間に聞いた言葉を思い出し、その部屋を見上げた。


やっと。
見つけた。


弱々しいけれど、でも、絶対の確信を男にもたらす、その懐かしい気配の糸を手繰るようにして。
山を下り。
人の紛れて。
探して探して。
探し続けて。
やっと。

男は、この地に辿りついた。

皓々と、闇夜を照らす、そんな月明かりのない夜だ。
儚い星光では、この闇を払うことは敵わない。

庭に立ち尽くす、全身黒尽くめの男は、見事なまでまでにその闇に溶け込んでいた。