「え?」
暁の唇から伝わる温度からは、懐かしい幸せを感じた。
徐々に私を包んでいく安心感が、暁と再会してからずっと私の中に巣食っていた不安定な気持ちを払拭していく。
この唇が、私をこのまま幸せにしてくれるといいのに。
何年もキスなんてしていなかったのに、自然と身を寄せてしまう事すら当たり前に思える。
軽くかすめるだけのキスを何度も繰り返して。
ふっと漏らす吐息がどちらからのものなのかもわからなくなるほど夢中になった。
そして、名残惜しげに唇が離れたと思うと、少し荒い吐息の暁は。
「俺がCDを出して、もしも世間に名前が知られたとしたら、俺に気づいた伊織との再会が現実になって、こうして抱きしめる事も、キスする事も、夢の中だけじゃなくなるんじゃないかって、そう思って決心したんだ」
「暁……」
「でも、CDを出す前に、こうして再会できたんだな。……俺らが大好きで夢中で読んでたあの作家さんの本の前で」
私の涙を拭うように指先をすっと滑らせながら、暁は唇をぎゅっと結んだ。
まるで何かを後悔しているようでいて、そして申し訳なさそうな顔を見せらると、今の暁の思いが伝わってくる。
高校時代、暁の何もかもをわかっていたわけではなかったし、細かく気を配って言葉にして伝えてくれるタイプでもなかった暁の本心がわからないもどかしさにいらいらすることもあった。
きっと、そんな暁の本質は今も変わってはいないと思うけれど、今暁が思ってる事は、全てわかる気がする。

