「俺も、伊織の側にいれば良かったって、何度もそう思った。
伊織を求めて苦しむ毎日に潰れそうで、いっそすぐに日本に帰ろうかとも思ったけど、伊織との奇跡の再会を信じながら、俺は……毎日バイオリンを弾いていたんだ。
でも、どんなに悲しい気持ちがあふれている時でさえも、明るい曲を弾くには自分の感情を殺してでもそれを表現しなきゃならなくて、それは拷問のようだった」
震えて言葉にならないような声が私の耳元に響く。
低いその声からは、暁が経てきた苦しい日々がたやすく想像できて、私も苦しくなる。
高校を卒業してすぐ、バイオリニストを目指してヨーロッパに渡った暁。
その間、ずっとお互いに連絡を取り合わず、何をしているのかも、どこにいるのかも、そして帰国していた事すら知らなかった私。
どうしているんだろうかと、ちゃんとバイオリニストとして大成したんだろうか、と気にかけていたけれど。
そんな事を教えてくれる人もいなかったし、暁の隣で私以外の恋人が笑っていたらどうしようかと考えて、現実を知る勇気もなくて調べることもしなかった。

