病院に運び込まれた私は、意識を取り戻して体中の痛みに苦しみながらも。
もっと苦しい現実を知らされた。
赤ちゃんは、助からなかった。
狂ったように叫んで、空っぽになったお腹を何度も何度も撫でて、泣き続ける私を抱きしめてくれたのは暁だったけれど、暁でさえ私の感情を落ち着かせることはできなくて、彼の言葉が私に届くことはなかった。
あまりにも悲しすぎて、誰の言葉も思いも優しさも私の心には届かなかった。
死んでしまった赤ちゃんの事ばかりを考えて寂しがっていた私は、自分一人が不幸だと、誰にも私の気持ちは理解できないと思い込んで、自分の殻に閉じこもるだけだった。
そんな私を優しく見守ってくれて、私の気持ちが回復するのをゆっくりと待ってくれていた暁だったけれど。
私の兄は、私から暁を解放した。
『赤ちゃんがいなくなって、みんなが悲しんでる。
でも、お前にはお前の人生がこれからも続いていくんだ。
伊織の事は俺たち家族が守るから、前から決めていた通り、行きたい大学に行け』
そう告げた兄にとってもつらい決断だったと思う。
暁の事を本当の弟のようにかわいがっていた兄には、暁を手放すという事自体切ない事だったはず。
それでも、暁がずっと行きたいと願っていた大学への進学を諦めさせるようなことはできなかった。
たとえ、それが海外の大学だったとしても。

