未熟な恋人


私の呟きは、静かな住宅街にしっかりと響いて、どうにも居心地がわるくなった。

再会できたのは嬉しいけれど、すでにもう、逃げ出したくなってきた。

暁は、私の呟きを聞いた瞬間、それまで落ち着いていた目を見開いて。

「どこからそんなバカげた考えが浮かぶんだ?結婚なんて、するわけないだろ……」

暁の呆れたような声に、ほんの少しの罪悪感を覚えつつも、ほっとした気持ちをごまかすことはできない。

呆れていて、どこか怒っているようにも感じられる暁の声に、小さく息を吐いた。

今でも暁の中に、私を求めてくれる奇跡の思いがあるんだと、自分を安心させてしまう、勝手な感情。

私が暁を傷つけた過去を思い返すとそんな事ありえないのに、それを望んでしまう。

今でも暁が私を好きでいて欲しいと、切実な感情が体に溢れる。

「次に伊織と再会できたならもう離れないって、愛し続けるって決めていたのに。俺が簡単にその思いを手放すと思った?
留学する前に、そう約束したはずだろ」

「約束……したのは、暁と私じゃないから。……暁と兄貴だもん。どこまで信じていいのか、待っていればいいのか、わからなかったから」

ごめんなさい。

再び暁を傷つけた事が申し訳なくて、俯いて小さな声でそう告げた。

その私の言葉が暁に届いたのかどうか、わからないまま、目の奥が熱くなったと思った途端、足元に小さな染みが広がった。

私の頬を伝って落ちる熱い涙が、次々と足元に丸い染みを作っていく。