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暁の車に乗せられて、一時間ほど走った所に暁の住む街は、あった。
日が暮れているにも関わらず、緑の匂いが豊かな住宅街には自然が多く残っているのがわかる。
私の実家に似ているその空気感に、緊張している気持ちが少し緩んでほっとした。
大きな住宅が立ち並ぶ整然とした風景の中に、暁の家はあった。
それなりに広さのある、手入れの行き届いた庭。
二階建ての家を見上げながら車を降りた私の頭にまず浮かんだのは、もしかしたら、暁は既に結婚しているのかもしれないという事。
独身の一人暮らしには大きすぎる家を前に、痛む胸を隠して、そっと暁を見た。
「……何?」
表情を失くしている私に、暁は怪訝そうに首を傾げて、穏やかな声と瞳で問いかけた。
高校生だった時よりも落ち着いた表情は、二人が離れていた時間を感じさせる。
すっと細くなった顔立ちや、スーツを着ていてもわかるほどにたくましくなった体からは、大人になったと思わざるを得ない暁の今がわかる。
10代の頃の、儚さや繊細さに変わって、何物からも守ってくれるというような強さが漂っていて、更に私の心は痛んだ。
私達が離れていた長い年月の中で、こうして大人になった暁の側に特別な女性がいてもおかしくない。
きっと、暁を好きになる女性はたくさんいたはず。
そう思うのは自然な事だけれど、同時にそれは、私の感情を壊していくような鋭い棘となる。
「暁、結婚……したの?」
棘を取り払うように、呟いた。

