バスの中でも電車の中でも駅に着いても友人と合流しても


落ち着かなかった。


そわそわ…
というより緊張と不安で
胸に何かが詰まっているみたいで、上手く喋れない。



こんなんじゃ告白なんて……っ、駄目駄目、弱気になってたら無理だっ


大丈夫大丈夫大丈夫
言い聞かせる。


大丈夫大丈夫。

魔法の呪文だと思い込ませる。

屹度、大丈夫!


教室に着いて、着席して
深呼吸をひとつ。


大丈夫。
大丈夫とだけ、考えよう。


約束の時間まで、あと四時間と少しだった。


空はまだ、蒼い。
授業も上の空で考える。
屋上で話してたら空だけがあたし達を見てるんだな…
空はあたし達を見守ってくれるのか、雲ひとつ無いまま朝と同じように蒼いままだった。


「…さん、ユキナさんっ!起きなさい、授業中ですよ」


「んあー…あ?えっ、あっ、えーと…」


教師があたしを睨んでる。
美人なのに全く、もったいないなぁ…

「あぁ、寝てたのか…午前中なのにねぇ…」


起きたばかりなのに大きな欠伸をするあたしに教師は呆れた顔をして指図する。


「教科書の、ここ。読むだけでいいから目覚まし代わりに。ほら」


「………」

「……」

「…」


「これで四時限目の授業を終わります、礼」


「さっようならぁ」


ガタンガタン、机の下に椅子を蹴り飛ばす音と同時に部活に、食堂に走り出す生徒たち。


あたしは生きてきた中で一番くらいの緊張と不安と、それから勇気をもって教室を出る。


一歩。


廊下を歩いて
階段を上って屋上に出る。
カナはまだいない。


一歩、また一歩。
少しずつ、近づいてる。
自分のあたしの足で…


屋上の扉も静かに閉まった。


屋上の端、扉の真ん前の柵に寄りかかって、空を見上げる。


蒼くて広くて綺麗で、心が落ち着く。



目を閉じて、
息を吸って、
風に吹かれて。


落ち着いた。


カナに会う、
伝える、
準備運動みたいなものかなぁ…


さぁっ…と風が吹いたその時屋上への扉がすっと開いた。カナだ。


風に髪が靡いて、綺麗で。


あたしに向かって、真っ直ぐに歩いてくる。あたしも寄りかかるのをやめてカナを正面から見つめた。