「あの、お母さん」
「うん?」
「恭介さんじゃなく涼なんですけど」
「涼ちゃん?涼ちゃんがどうかしたの?」
「はい。ここ二、三日ちょっと」
「えっ?」
「いえ、今まで殆ど手がかからなかったし、駄々をこねても言い聞かせたら分かってくれてたんですけど」
「うん」
「何か…最近駄々をこねるし我が儘言い放題だし言うことを聞かないし泣きわめくんです」
「涼ちゃんが?」
「はい。今朝も何が気に入らないのか大泣きして…じゃあ保育園に行かないのかと思うとお迎えが来たら泣き止んでいつも通り行くんです。でも私には『いってきます』も無し。『おはよう』も『ただいま』も…私だけじゃなく恭介さんにもしないんです」
「赤ちゃんが出来るのでヤキモチって言うか注目が赤ちゃんにいくから寂しいんじゃない?」
「はい。私も恭介さんもそう思って気をつけてるんですが」
寂しがらないように恭介さんも涼の相手をしてくれてるんだけど。
「反抗期じゃない?」
「えっ?」
反抗期ですか?
「そう、第一次反抗期。赤ちゃんから幼児にと成長する時にあるのよ。涼ちゃんはもうすぐ四歳でしょう?ちょっと遅いくらいかも」
「遅いんですか?」
「うん。恭介なんて早かったわよ。ま、あの子は生まれた時から反抗期みたいなもんだけど」
「えっ?」
そうなの?
「大丈夫よ、一時的なもんだから。それにね」
「はい」
「あまり気を遣いすぎないこと。余計にその空気を感じて疎外感を覚えてしまうわ。ほっとくくらいの方がいいわよ。そして悪いことをしたらちゃんと言い聞かせて、それでも駄目なら叱りなさい。少しくらい厳しくしても大丈夫。ただね」
「はい」
「叱った後は抱き締めてあげなさい。そして涼ちゃんがどんなに好きか大事かを言ってあげなさい。涼ちゃんにだって伝わるから」



