「みいちゃん、仮にも婚約者に向って何言ってるんですか」

「そうなんだけど。そうなんだけど、ね?」

「恋か。できるかな」


遥佳くんはそう言って笑うけど、絶対にできるよ。

だって、私と遥佳くんが運命の相手じゃないことは、なんの根拠もないけど分るから。


「出来なくても良いよ。俺は美乃梨と結婚して幸せになるんだから」

「そうだね」


多分、遥佳くんも私と同じことを考えてると思う。

私たちにとって「結婚」はこの関係の延長線上みたいな感覚。

それは「永遠の幸せ」を手に入れるための行為では決してない。


その日、遥佳くんは父に会うことなく用事があるからと早く帰って行った。


「今日、遥佳くんが来てたんだって?久しぶりに会いたかったよ」

「約束があったみたい。遥佳くんもパパに会いたいって言ってた」


そう言って私が父に笑いかけると、いつも父はホッとした顔をする。

一応、私と純くんを引き離したことを少しだけ気にしているらしい。