階段下に空いたスペースには、誰もいなかった。おそらく物置の扉があるが、鍵がかかっていて開かない。さらに未だに、そこが開いたところは見たことがなかった。高は立ち止まって、私の方に向き直った。

「紗理奈のこと、あいつは知ってる?」
 私は、小さく首を振った。言えないよ。心配かけたくないもの。
 渡り廊下の向こうから、ぼんやりとはしゃぎ声が聞こえる。何を言っているのか聞き取れないが、楽しそうな声だ。

「……にしろよ」
「え?」

 うまく聞き取れなかった私に、高はもう一度、少し緊張気味に言い直した。はしゃぎ声は笑い声に変わっていた。