「おい」
 聞き慣れた声に振り向くと案の定、高がいた。何か言う前に、腕を掴まれた。男らしい、私より大分強い力だった。バッグにかけている方の手をつかんだまま、まっすぐに私を見ている。

 私はその手を振り払うこともなく、ただ呆然と今日高と話したのはこれが初めてだと気付いた。同時に、朝のことも思い出した。

「高……」
 紗理奈と何を話していたの?頭に浮かんだ疑問をすぐにかき消す。聞くわけにはいかないだろう、そんなことは。
 すぐ後ろで陽菜が黙って私と高を見ていた。そして少しためらいがちに、高は言う。

「ちょっと来て」

 部活に、行かなくてはならないのに。しかし足は自然と高について行ってしまう。私は、高に引かれるまま教室を出た。

 振り返ると、私の荷物を乗せたままの机の側に、陽菜は黙りこくって立っていた。