「あたし、君と出会えて良かった」

ありがとう、と彼女が冷蔵庫の中で呟いた。
冷蔵庫を通しているから少しくぐもっているが、きちんと聞こえた。
彼女の、笑顔の声。

彼は冷蔵庫の、彼女の目があるであろう場所を見つめて微笑んだ。

「じゃあ出来るだけ離れないようにするよ。僕が傍にいるから」

彼はそっと冷蔵庫に口付けた。
彼女の唇があるであろう場所に。
気付かれないように、そっと。

彼女はきっと気付いていない。
これから先も気付くことはない。

これから先もきっと言わないから。