「おーい、どうしたー?」

ふと彼女の声で、彼は我に返った。
目の前には心配そうに彼の顔を覗き込む、彼女の――溶けた顔。

「......溶けてる」
「へ? 嘘、あ、嫌だ、本当だ!」

うわ、恥ずかしー、忘れてー、と彼女が小型冷蔵庫に顔を突っ込みながら言った。
彼は特に驚くわけでもなく口を開いた。

「いいじゃん捌煮、見られたって。仕方ないことなんだから。それにさ――」

――これで少し距離が近付いた気しない?
彼女に微笑みかけながら、彼は彼女のことを羨ましいと思っていた。

だって彼女は溶けるんだから。
溶けても、少し冷やせばまた元に戻るんだから。