想いを巡らせていてふと、

我に返る。


「何も、知らない……」


そう。


私、高橋くんを

目で追うばかりで、

高橋くん自身を全く知らない。


どんな表情をするのか、

どんな声で友達と話すのかは

目で追うくらいなら分かる。


でも、どんなことに興味があって、

どんな性格で、

兄弟がいるのかどうか、

高橋くんのプライベートに

関することは、何一つ

知らないんだ。


高橋くんを見つめ続けることで、

全て知った気になっていただけ。


本当は高橋くんのことなんて、

ちゃんと見ていなかったんだ。


「……情けないな、私」


手にしている袋を

今度は抱えるようにして持つ。