それまでの会話が

まるでなかったかのような

高橋くんの言動に、

動揺を隠せず

目が泳いでしまう。


「お客様、

 フィッティングルームまで

 ご案内しますね」


ふわりと甘い笑顔をした高橋くんが、

私の肩に触れるか触れないかの

微妙な距離を保ちながら、

ゆっくりと誘導する。


高橋くんの

その切り替えの早さに、

どうにもついていけない。


ほんの数秒前まで、

私の耳元で囁いた高橋くん。


でも今は、

このショップの店員に

すっかり戻り、

私を一お客様として扱っている。


コロコロと表情を変える

高橋くんが、

不思議に思えて仕方ない。


だって、

私の知ってる高橋くんは……。


もしかして、

私の知ってる高橋くんは、

私の思い込みなのだろうか。