一歩一歩近寄ってくる朔夜。
目の前で見た朔夜の力には勝てそうにない。
しかし、一つだけわかった。

鈴の音を聞かないか…
朔夜に触れられなければいいんだ。
『基本的には逃げろよ!』
イヤホンの向こうでは健三も焦っていた。

俺は二人にその旨を伝えた。
優香も瑠奈も物わかりがよくてよかった。
これが晴彦や美保だったら…絶対面倒だ。

「素直に瑠奈を帰すなら何もしないぞ。」
と言う朔夜だが、とうていそんな気はない。
けど、逃げるにも逃げ切れるか不安ではあった。

「守…。」
そんなとき、優香が俺に一つの案を耳打ちしたくれた。
「朔夜も月の人。だったら…。」
と言う。
最後の方は何故か笑っていた。
こんな状況下でよく笑えるな…と思う。
しかし、優香の言う方法は面白そうだ。

「お前なんかに瑠奈は帰さないよーだ!」
と子供っぽく馬鹿にしてやった。
その結果は予想がつく。
「な、なんだと?」
月の帝、しかも俺たちを酷く蔑む奴だ。
こんなことされたら、頭にもくるだろう。

「逃げるぞ!」
いい感じで挑発にのったところで俺たちは逃げた。
勿論、逃げ切れる気はない。
「逃がすか!」
ただ一つだけ逃げ切れる方法を優香が考えたのだ。

俺たちは走った。
目指す場所は…改札口。
「瑠奈さんはもう平気よね?」
と優香が走りながら瑠奈に尋ねる。
すると、瑠奈は不安そうな表情を見せるが首を縦に振った。
「大丈夫だ!」
そんな瑠奈に俺は笑顔で言ってやった。

所々で朔夜は警官に押さえられるが、無意味であった。
瞬く間に意識を失い倒れていった。
今思えば…竹取物語の最後も幾人の兵士が気を失ったってあったけど…この事なのかもしれない。

新宿駅改札口にたどり着く。
予め用意していた切符を使い、改札を通る。
今朝はもたついていた瑠奈も少しは慣れたようで時間もかからず通れた。
「優香、あと何分だ?」
「あと二分!グッドタイミングね!」
と時間を確認して言う。

後ろから追ってくる朔夜。
しかし…
「な、なんだこれは!」
と“ピンポーン”と音と共に立ち止まっていた。
それもそのはず…切符も何も使っていないのだから。

「瑠奈も今朝、あんな感じだったよな…。」
と笑う。
「う、うるさいのじゃ。」
突如鳴る音と閉まる改札口。
月には“電車”というものはないらしいし、竹取物語の時代にも存在していない。
だから、びっくりするのは当然だ。