「前にもこんなことあったの覚えてないの?」
がっつく俺に優香は言う。
前にもあったと言うが俺には全く記憶がなく、
「覚えないな。」
食べるのに夢中だったせいもあり、答えが適当になってしまった。
「もう…。」
優香はそれ以上聞くことなく箸を伸ばした。

優香の御飯は何度か食べたことがある。
けれど、今日のはいつもより美味しかった。
いつも美味しが、今日のは美味しい。
お腹か減っているせいもあるかもしれない。
でも、今日はいろいろとあったから、それが美味しさを引き立てているのかもしれない。

前置きした料理とは思えない美味しさであった。
「優香殿の料理は美味しいのじゃな。」
「月のお姫さまじゃ、こんなの質素でしょう?」
「いいえ、竹のじーちゃんと同じ味で懐かしいのじゃ。」
と昔を思い出すように食べる。

「そういや、蓬莱とはなんで知り合ったんだ?」
竹取物語の話だと、かぐや姫は大事に育てられ滅多に外にはでなかったはず。
そんな中どのようにして蓬莱と出会えたのか。

「蓬莱は話した通り、庫持の皇子殿の子供の一人。蔵持の皇子殿が初めて私に会いに来たときに蓬莱に会った。」
「なるほど。」
「…じゃが、蓬莱は他の殿方とは違ったのじゃ。」
「違った?」
優香も興味深そうに聞き込む。

「蓬莱は私に冷たかった。」
「そっか!」
それを聞いて優香が閃いたように叫んだ。
「な、なんだよ?」
「竹取物語読んだことあるでしょ?かぐや姫は誰もが結婚したいって思う程の美人よ。…まぁ、この瑠奈さんのことだけど。」
竹取物語では、かぐや姫ー瑠奈は絶世の美人とされみんなから好かれた。
…だから、蓬莱とどう繋がるのか、俺には分からない。

「鈍感ね…。周りからチヤホヤされてるのに突然一人の人から冷たくされたら…。」
優香の後に続けるように瑠奈が、
「初めての会った時の印象は強かったのじゃ。」
「…はぁ。」
俺にはイマイチその繋がりが分からないが…そういうことなのだろう。

「私はその時から蓬莱のことが気になったのじゃ。それまで、正直なところ私も地上の民を愚民の思っていたのじゃがな。」
「…何故、月では地上の人を愚民と思っているの?」
優香は食べ終えた食器を流し台へ持っていきながら聞いた。
…話に夢中だったが、いつの間にか食べ終えていたんだ。

「地上の民は命が短い。それに月ほど文明も発達していない。飢餓や戦争、内戦…同じ民通しで争う。…つまり、地上の民の根本は“私欲”であると思われているからじゃ。」
「…そんな。」
少し酷い思われようだが、事実であることも多い。

ニュースでは必ず聞くこと。
この日本では無いが、飢餓や紛争は今もどこかで起きていることは確かである。
…残酷な話ではあるが。