「まぁー、守は放っといて…倉持くんどう思う?」
やはり優香は俺のことどうでもいいみたいだ…。
そっちのけで、健三に文学書の話をしている。

「なぁ、守。お前、設楽と喧嘩したのか?」
と小声で晴彦が聞いてきたが、
「別に。」
と言えなかった。
自分で認めたくはなかった。

遠目で優香と健三の話を聞いていた。
作者不明の竹取物語と同じ頃に書かれた本。
内容は二人にはよく分からなかったらしい。
…というのも、竹取物語との関係しそうな内容がないからだ。
帝の生活・富士の山・貴族の文化…
それらしいことはあっても…
「どれが関係あるのか…分からない。」
「でも、甲斐さんに『富士の山へ行った帝の遣いは調の岩笠だけじゃない』って。」

優香と健三。
二人だけで推理が進む。
俺たちには到底分からない領域だ。

「これを読めば分かるって…。」
「いや、悪いが…俺には分からない。」
健三は眼鏡を外し言った。
「へー健三にも分からないことあるんだ。」
「倉持くんにも分からないことあるだ!」
馬鹿にする二人登場。
この二人に当然、分かるわけがない。

「瑠奈さんは何か思い当たる節はある?」
優香が瑠奈に聞く。
しかし、瑠奈は相変わらずの様子だ。
「いいえ。知らない。」
と、ボソッと言うだけだった。

「なんか、瑠奈ちゃんも様子変だよね?」
と今度は美保が俺に小声で聞いてきた。
「あぁ、さっきからああなんだ。」
と俺も小声で答えた。

そうなのだ。
そもそも、こいつがこんなに変な態度を取るから俺だって疑いたくなるのだ。
…だから、優香にあんなことを言われた。

「まっ、いいか!」
と美保は笑ってそれ以上聞くことはなかった。

俺も…やっぱり美保くらいの素直さが欲しい。
優香が言うならば、昔は俺も素直だったのだろうか…。

俺たちの会話をそっちのけで、健三は徐に立ち上がる。
少し唐突だったので皆驚いた。

「その本は後で考えよう。」
と言って、健三は机の上のパソコンを開いたら。
「俺がみんなを呼んだのはこれだ。」
と言ってパソコンを指差した。

全員がパソコンに目を移した。
そこに映し出されていたのはネットの掲示板。
『夏の都市伝説』
というスレッドタイトルだ。

「これが…どうしたん?」
晴彦はもはや面倒臭そうだ。
「真面目に聞けよ。もしかしたら、俺たちには重大なことかもしれないからな。」
いつより口調が厳しい。
その様子に誰もが息を飲んだ。