車に乗っているとどうも落ち着きのない奴が一名。
「瑠奈さん、どうしたの?」
後部座席に一緒に座っている優香が瑠奈に聞く。
瑠奈はまるで石のように硬直状態だ。

「お、おい。この動く車はなんじゃ?」
とびくびくしながら言う。
動く車って…車が動くのは当たり前。
「守、もしかして…」
優香が何かに気づく。
「なんだよ。」
「瑠奈さん、車知らないと思う。…だって、よく考えたら竹取物語の時代の人だもん。」

…そうだった。
言わば、竹取物語の時代からのタイムスリップである。
自動車など知るわけもない。

「瑠奈さん、これ自動車って言うの。」
「じどうしゃ?」
「まぁー便利な車だよ。」
と流すように説明した。

俺が思うに、これからもっとたくさん説明するものが出てくる。
その度説明していたら日が暮れてしまう。
「…わ、わかった。」
と言った割にはまだ怖そうだ。

だからと言う訳ではないが、帰りは安全運転に気を使った。
自分が余り体調がよくないというのも一つの理由ではあったが…。

直接俺の家に行く前に優香の寮へ寄った。
優香自身が着替えたいのもあるが、瑠奈の服をどうにかする必要があった。
いくらなんでも、これから着物で彷徨かれては目立つ。
「ちょっと待ってて。」
と言って寮の中へと入っていった。

車の中は俺と瑠奈の二人だけになった。
…どこか気まずい。
「守殿は優香の事が好きなのか?」
二人になったとたんの質問。
しかも、まだ会って間もない人にする質問か?

「わかりやすいんじゃな。」
と、俺が答えていないのにも関わらず“好き”ということになっている。
「勝手だろ?」
「時間がいつまであると思ったら大間違いじゃぞ。」
と真顔で言う。
そんなこと、言われなくてもわかってると言ってやりたかった。
…が、言えなかった。
理由は分かる。

「まぁ、私も言えた義理ではないのじゃがな。」
と急に俯く。

どうやら、まだ話していないことがありそうだ。
俺は直感的に思った。
瑠奈には何か重い何がある、そんな気がした。

「お待たせー、って…どうした?」
このタイミングで入って来るなよと正直思った。
「守、瑠奈さんになんかしたの?」
「は?なんもしてないし。」
「なんでもないんです。ちょっと昔の事を思い出したのじゃ…。」
危うく濡れ衣を着せられるところだった。
それにしても、やはりまだ何がある。
そんなことを連想させる言葉だった。

車を走らせ俺のアパートに着く。
優香の寮から大した距離はない。
歩いてもいいくらいの距離だ。

「これが守殿の家か?」
「そうだが。」
「竹のじーちゃんより立派な家じゃな。」
…竹のじーちゃんって…竹取りの翁のことだろうか。
なんか、笑える。