「藤原蓬莱(フジワラノホウライ)という方だ。」
「藤原蓬莱?…健三わかるか?」
「いや、聞いたことはない。ただ、“藤原”っていうのは歴史上の藤原のことか?」
「そうだ。」

藤原。
平安時代の有名貴族の一人。
歴史で一度は聞いたことのある人物だ。

「…だとしたら生きてないだろ?」
そうだ。
平安時代など千年も前の話。
生きているはずがない。

「そうね。」
一度、うつむいた瑠奈だったが、
「では、竹取物語の本当の物語を話すわ。」
再び俺たちの方を向いた。

その目には偽りの曇りなどない、全てを映す綺麗な目をしていた。
強い決意とどこか悲しげな瞳だった。

今は昔、竹取の翁がいた。
貧しくも婆さんと仲睦まじく生活していた。
そして、今日も翁は竹を取りに山へ向かった。
そこで一本の光る竹を見つけた。
それを割ってみると、中には掌に乗るほどの小さな女の子がいた。
翁はその子を手のひらで包むように家へ連れて帰った。
これまで子供に恵まれなかった二人には大層大切に女の子を育てた。

女の子の成長は竹の如く早かった。
三ヶ月ほどで大人の女性へと成長した。
少女も成人と言っていいほどになったので、
「この子にいい名をつけてくれ。」
と、翁は近所の神主を訪ねた。
すると神主は、
「輝くほどの娘だ。かぐや姫がいいでしょう。」
と、少女の名をかぐや姫と名付けた。

それから、かぐや姫の成人を告げる宴会が三日間行われた。
「みなさん、こちらがかぐや姫です。」
と紹介する。
すると来客はみな、かぐや姫のあまりの美しさに言葉を失った。
酔いの幻と感じた者も多かった。

その後、この美しさが噂となり話は都まで伝わった。

そして、遂に…かの有名な難題五題の貴族が集まったのだ。

石作りの皇子
庫持の皇子
右大臣の阿部のご主人
大納言の大伴のご主人
中納言の石上の麻呂足

この五人である。
そして、この五人にそれぞれ難題を出す。

み仏の石の鉢
蓬莱の枝の玉
火ねずみの衣
龍の首の五色玉
燕の子安貝

…実際、この五品は存在していない。
しかし、全員がかぐや姫と結婚したく難題に向かった。
そして、その全員が難題の途中死んだり、権力を失った。

だが、それでもかぐや姫へ求婚しに来た者がいた。
時の最高権力者の帝ー天皇である。

しかし、時同じくしてかぐや姫言う。
「八月十五日の満月の晩、月に帰らなければなりません。」
それを聞いた翁と帝は数千という兵を率いてかぐや姫を連れ去る月の遣いに立ち向かった。

結果は無力。
かぐや姫は月へと帰っていった。

その時、不老不死の薬ー蓬莱の薬を帝に送った。
しかし、帝は、
「かぐや姫のいない世界で不老不死になっても哀れなだけだ。」
とし、蓬莱の薬を火山に捨てた。