健三が瑠奈を背負い、ウッドハウスまで運んだ。
その間、俺たちは何も話せなかった。
衝撃と困惑。
期待と不安。
いろんなものが入り交じる今、誰も話せなかった。

「ねぇ、そういえば…」
美保が徐に喋りだす。
「なんだ?」
健三が答える。
着物を来ている人を背負うのは少々辛そうだ。

「飲み物、飲もう?」
「はっ?」
この状況下でよく言えたものだ。
しかし、
「そうね。」
「確かに。」
「今は、とりあえずだな。」
そう。
今はそういうのが大切なのだ。

冷静というのではなく、平常。
いつもと変わりない時間の流れが必要なんだ。

「とりあえず、一回整理しないとな。」
と健三。
「飲みながらでも話そうぜ。」
健三に提案してみると快く頷いた。


ウッドハウスを開け、瑠奈をベッドに寝かす。
今もまだ気を失っているようだ。
ただ、その顔には一筋の涙の筋があった。
「泣いてる?」
「…みたい。」
優香と美保が気づく。
「恋人って誰なんだろうな。」
晴彦が缶ビールを冷蔵庫から出し、言う。
「さぁー?」
頭のキレる健三ですら検討はつかなかったようだ。

「仮に、あの子がかぐや姫だとしても…かぐや姫は求婚を全て断っているはずよ。」
すかさず文学少女ー優香が答える。
優香は文学の話になると滅法強い。

「確かに。それで、月に帰ったはずだ。」
晴彦も話に加わる。

…そういえば、ここ“文学研究サークル”だった。

「だったら、恋人はいないはずなんじゃん?」
美保が軽いノリで言う。
あまり興味がないのか、それとも楽しいのか…わからない。

「だったら、今の時代の人を恋人候補にしてるってことか?」
美保の発言に俺は疑問を持った。
「その可能性はゼロではないな。」
分析でもしているのか…健三。
「えっ?まさか守、狙ってるの?」
ビール片手にからかう優香。

いや、そんなわけないだろ!
てか、優香にそんなこと言われたくないわ!

と心の中で叫ぶ。
「いやいや、守は無理だろ。」
「確かにー!」
と便乗してからかう晴彦と美保のバカ二人。

「おい!お前ら、ふざけんなよ!」
つい、ムキになった。
顔が熱く火照っているのがわかる。
そのくらいちょっと嫌だった。

「そうじゃぞ。ふざけるでない。」
俺が少しムキになった時、後ろから声がした。
「あっ。」
そこにいたのは瑠奈だった。

呆気にとられた。
さっきまで気絶してたのに、復活はや。

「恋人はいる。その方を探して欲しい。」
と瑠奈は話始める。
「その方って?」
優香が優しく問いかける。
さっきの涙が気になっているようだ。