カシャンッ!!

大きなフェンスの音に
あたしは驚いて振り向いた

「篠原先輩!?」

「よぉ、やっぱり此処にいたか」

篠原先輩は三年生
今年の総体で走るのが最後
二年生の時全国出場したこともある
うちの中学伝説のランナー

?アレ、もう一人いる...

「俺のこと無視しないでよ恭ちゃ~ん」

「濱野先輩!!」

濱野先輩は二年生
種目は高跳びで自分の身長より高いバーも
跳んでしまう...と言うより『飛んでいる』
こっちの方が合ってるカモ

「先輩たちだけですか?」

「他のは何か用事があるとか言ってなぁ」

ほんっとにこの人たちは
どんだけ陸上が好きなのよ...

あたしが呆れ顔で三人を見つめていると
濱野先輩と目があった

「な、何ですか先輩?」

「そう言えばさぁ、恭ちゃんって樋口 恭だっけ?」

「はい...」

濱野先輩は何かを考え込んで
いきなり、「ひらめいた!!」とでも言うように
あたしの方を見た

「恭ちゃんって小学生の時高跳びで全国大会行ってるよね?」

「えっ!?そうなの?」

篠原先輩が驚いて目を丸くする

「然も大会新記録で優勝した陸上協会期待の星だったって聞いたことがあるあの伝説の...」

濱野先輩の一言一言が耳に入るたびに
あたしの心臓が高鳴る...頭の中が真っ白になる

「濱野先輩!!!」

「うっわびびったぁ~何だよ侑斗~」

その瞬間あたしは我に返った

「濱野先輩、恭は高跳び何かしませんよコイツは見る専門なんで」

「そ、そうですよ人違いじゃないですか?」

「そっかなぁ?」

そう言って高跳びのマットの方に歩いて行った先輩を
あたしはホッとしたように見つめた
その時あたしを切ない目で見ていた侑斗の顔が
見えた気がした...