リサは近所の浮遊霊達に顔が広かった。カオリが勇作のことを彼等に知らせると瞬く間に勇作の部屋が一杯になってしまうほどの浮遊霊達が集まってしまった。
 そして彼等は集まると酒盛りを始めてしまった。既に現世とは縁が切れている彼等であったが、どうやって手に入れてきたのだろう、沢山の酒類とつまみが所狭しと広げられてしまった。
 一体どうやって手に入れたのか、カオリに尋ねてみると彼女はあっさりとこう答えた。
「あそこに痩せた爺さんが見えるだろう?あの爺さんはここから五分ほどのコンビニの親父さんだったのさ。爺さんが死んで息子が後を継いだんだけど、この酒なんかはその店の倉庫から戴いてくるんだ。爺さんは今までさんざん息子に世話を焼いてきたんだから当然だと言ってね」
 カオリは全く悪びれていなかった。
 彼女が指さした老人はカノウという名前だった。この中でも数少ない戦争に行った口だという。普段は大人しいのだが、酒が入ってしまうと戦争に行った時のも武勇伝が始まるのだという。呑むと人に絡んでくるあまり言い酒とはいえなかったが、普段の人柄の良さからか、憎めない存在となっているらしい。
 そのカノウが勇作に声をかけてきた。
「よう、兄さん。あんたリサちゃんを可愛がってくれているそうじゃないか」
 カノウは何故か嬉しそうだった。
 ふと周りを見回してみると嬉しそうにしているのはカノウだけではない様だった。そこにいる浮遊霊の誰もが嬉しそうにリサに声をかけたり、肩を叩いたりしていた。リサはその一人一人に笑顔で応えながら果物の入った缶チューハイを空けていた。
 それを見て勇作には一つの疑問が湧いてきた。
 リサは未成年ではなかったか。
 あどけない顔立ちや着ている制服などからどう見ても高校生くらいだった。けれども、リサは手慣れた手つきで缶チューハイを飲み続けている。
 勇作はその疑問をカノウにぶつけてみた。
 するとカノウは、
「なぁに、幽霊っていうもんは歳を取らないんだ。それにな兄ちゃん、法律ってもんは生きている人間に適用されるんだ。儂等には関係ないんだ」
 と、腹の底から笑った。
 言われてみればそうなのかもしれない。
 確かにリサは高校生の様な格好をしている。けれども、それは彼女が生きていた頃の姿であり、それからどのくらいの時間が過ぎたのかはわからなかった。名にしろ当のリサが記憶を失っているのだ。
 勇作は飲酒のことはあまり深く考えない様にした。何よりもリサが楽しそうにしているではないか。それで良いんだ、と彼は思った。