一ヶ月後…。
 公害の墓地に勇作取り柄の姿があった。
 激しかった夏の日差しが過ぎ穏やかな秋の風が二人の沸きを通りすぎていく。心を落ち着かせる線香の香りが当たりから漂ってくる。 穏やかな日差しの中白い墓石が柔らかな光を放っている。墓石には『鴻上家之墓』と記されている。
 理恵は持ってきた花束を墓前に供え両手を合わせている。勇作も彼女の後ろに立ち、同じように両手を合わせている。
 勇作にはいつもの日常が戻っていた。
 理彩がいなくなってカオリ達も部屋に訪ねてくることは無くなっていた。
 理彩のために誘因をしていた操も無事退院し、今では時々連絡を取り合っている。それが友人として終わるか、それ以上の関係になるかは今のところわからない。けれども今はそれで良いと勇作は思っていた。
 まだ理彩を失ったことを忘れることができないでいたからだった。
「さあ、行きましょうか」
 祈っていた理恵が振り返った。
「そうだね」
 勇作は傍らに置いていた水桶を手にした。そして心の中で理彩に声をかけた。
(理彩、また来るよ)
 秋の澄んだ空が勇作の言葉を吸い込んでいった。