女は去って行った…。
 美里のような霊能力者と対峙して、理恵や勇作のように零の見える人間の視線を受けて、カオリ達浮遊例に囲まれて、小島のような零の見えない人間を巻き込んでしまったために…。何よりも決定的だったのは元に戻ろうyとしている理彩が不安定で消え入りそうなのを確認したためだった。
「このまま消えて無くなればいい…」
 去り際に女はそう吐き捨てた。
 女が勇作を襲ってきたのは何よりも理彩を苦しめるためだった。直接対峙して傷つける道もあったが彼女はそうはしなかった。理彩がより傷つき、より苦しむであろう方法をとっていたのだ。
 それももう終わろうとしている。
 あの小娘は苦しみ消えようとしている。
 この程度ではまだ女の憎悪は満たされはしなかったが、対象となる小娘がいなくなろうとしているのだ、目的は果たしたといって良かった。
 女は満足したように冷たく侮蔑した視線を一同に投げて消えていった。
 光の渦は次第に理彩の姿に近づいていく。だが不安定で纏まろうとするとどこか一部が崩れていく。それを何度も繰り返している。
「理彩、戻ってこい」
 勇作は何度も念じ続けた。
 何度も、何度も繰り返し呼びかけた。
 その度に理彩の姿は纏まっていった。
「勇作…」
 やがて理彩は勇作の名を口にした。
 その声はか細く今にも消えてしまいそうだった。
「理彩、しっかりしろ…」
 勇作は理彩を受け入れるように両手を広げる。
「私、もう駄目みたい…」
 苦しげな、そして悲しげな理彩の声が届く…。
「そんなことはない。戻ってきておくれ。君がいない事なんて今では考えられない…」
「勇作…」
 理彩が勇作の腕の中に身を寄せる。その瞳が潤んでいる。だが勇作には理彩の感触はなかった…。
 理彩の身体が次第に崩れていく。
 光が司法に散り消えていく。
 勇作の目も潤む…。
 その痛々しい姿を見て理恵が美里に尋ねる。「何とかなりませんか?」
 美里は首を横に振る。
「ああなってしまうと私にはどうすることもできない…」
 カオリが、カノウが二人の様子を見守っている。
 そして理彩の身体は光の粒となって司法に散っていった…。
 理彩は消えてしまった…。
 始めから存在していなかったかのように…。