黒い影は周囲に強い憎悪の念を撒き散らしながら次第に人の形に纏まっていく。理恵は勇作の元に駆け寄り彼をかばうように黒い影との間に立ちはだかった。そんな彼女を黒い影はあざ笑うように弾き飛ばした。堅いコンクリートのざらついた面が理恵の肌に食い込んだ。血の滲む感触が伝わってくる。
 そんな彼女に黒い影は二の矢を放とうとする。理恵は目を閉じて顔を背けた。
 そこに割ってはいるように二つの陰が現れ、その一つは理恵の肩に手を添えて彼女委の身体を起こしていく。もう一つの陰は二人と黒い影の間に立ちはだかり彼女達を守ろうとしている。黒い影の二の矢は立ちはだかった影に放たれ、影はフェンスに叩きつけられた。「小島さん!」
 理恵を抱きかかえている恵が叫んだ。
「野郎!」
 小島は体制を直して黒い影に飛びかかる。だがその影は何の感触もなく、小島の身体は擦り抜けてしまう。
 そのとき鋭い光が黒い影を貫いた。
 一回、二回、三回、光は苦労影を貫いた。その光が放たれた先には小さな鏡をかざしている美里の姿があった。
「もう観念しなさい」
 美里はそう言うと更に光の矢を放った。
 その光に貫かれ黒い影の影は飛び散り、一人の女の姿を露わにした。その姿はぼんやりとではあったが小島と恵の目にも映った。
「あなたはあの男の奥さんね。それも生き霊」
 美里の言葉は冷たい薄笑いを浮かべる女の胸に突き刺さった。
「そうよ、あの小娘に追い詰められてみっともない死に方をした男の妻よ」
 女は集まっていく光の柱を指さしていった。 理彩だった光は次第に元の姿を取り戻そうとしていた。
 女はそれだけは許せなかった。夫を苦しめ、子供を苦しめ、自分をも苦しめた小娘が何の苦しみもなく存在することだけは許せなかった。女は理彩に戻りつつある光の柱に向かって勢いよく走り出した。一つに纏まろうとしている光を拡散して理彩に戻れなくしてしまおうとして走り出した。
「くっ」
 慌てて美里は鏡の焦点を走る女に会わせようとしたが間に合わなかった。
 あと歩で光の中に女が飛び込もうとした次の瞬間、何者かが飛び込んできて女を突き飛ばした。
 それは肩幅の広いがっちりとした女だった。「リサを泣かすやつは許さない」
 カオリは女に向かって怒りを押し殺した声で言った。