美里の視線がリサの目を貫いていく。そこから彼女の脳裏の奥深くに入り込み、記憶委を司る場所に侵入していく。 そうしてリサの現在(いま)の記憶にたどり着く。勇作との出会い。カオリ達のこと。そして操に行ったこと…。
 美里は一通り現在の記憶を見回して過去へと遡っていった。一年前、彷徨ったあげく今の部屋にたどり着いたこと。二年前。三年前…。そこでリサの記憶が曖昧になる。あるところでプッツリと途絶えているのだ。記憶の流れに大きな壁が立ちはだかっている。リサが中学三年生の頃だ。その壁は幾重にも重なっており、それを乗り越えようとする者を遮っていた。
 美里は精神を集中して一枚一枚その壁の層をはがし始めた。リサの心がそれを阻止しようとする。リサの苦痛が伝わってくる。
 だがその工房にも終わりが来た。
 薄くなった壁の向こうからリサの本当の名前が浮き出てきた。
 理彩の本当の名前は鴻上理彩といった。
 カオリ達のつけた利差というニックネームはあながち外れてはいなかったのだ。
 鴻上理彩は孤独な少女だった。
 幼い頃父親を事故で亡くし、彼女が六歳の時母親が自殺してしまった。それ以来リサは祖父母夫妻に育てられていた。
 祖父母の家は裕福とはいえなかった。
 生活は年金で支えられていて、リサを育てていくにはあまり余裕がなかった。そして祖父は病気がちで入退院を繰り返していた。そのため祖母は近所のスーパーデパートをしていた。自然理彩は一人で過ごす時間が多くなっていた。
 両親を失い、育った町を失った理彩には孤独な状態は辛かった。人との触れ合いに植えていた。そのために学校ではできるだけ目立とうとして友達を多く作ろうとしていた。だがせっかくできた友達も暫くすると離れていった。理彩にはその理由がわからず、孤独はいっそう強く理彩に襲いかかってきた。
 理彩はいっそう人との触れ合いを求めた。 いつしか彼女委は夜の町で過ごす時間が長くなり大人達との触れ合いを求めるようになっていった。
 そして理彩は…、
 殺された。
 何度か肌を触れあわせ、父親のように感じていた男に殺された。
 男には妻がいた。
 子供もいた。
 守るべき家庭があった。
 それらを捨てて理彩を手に入れようとした。
 今までは果たせないことを死をもって果たそうとした。
 そして理彩を殺し、自らも命を絶った。
 理彩は『父親』に裏切られた。
 それが彼女の記憶を奪った…。