翌日の夜、リサは元に戻っていた。
 その日は彼女は勇作の会社に着いてくることはなかった。昨日のことがリサの心の何かに触れたのだろう、朝になっても彼女は部屋の片隅で眠っていた。
 勇作はそんなリサを置いていくことにためらいを感じたが、会社を休むわけにはいかない。後ろ髪を引かれながらも出社したのだ。
 それでも一人でいる彼女のことが気になり、定時であがって帰ってきたのだ。
 だが、その心配は杞憂に終わった。
 明るくまとわりつくリサは一人で留守番ができたことを自慢するようにしていた。
 こんな所はやはり幼子のようだ。
 勇作はそう思った。
 これなら昼間一人にして無題丈夫だろう、勇作は思ったことを口にした。
「たぶん、大丈夫だと、思う…」
 リサは自信なさげに答えた。
「なるべく早く帰ってくるから。がんばろうね」
 勇作は子供を宥めるように言った。
「うん、がんばってみる」
 リサは機嫌良く答えた。
「遅くなるときには電話をするから」
「でも、私電話に出られないよ」
「大丈夫、留守電にしておくから僕の声は聞こえるよ」
 勇作は軽くリサの肩を叩いた。
 その夜は平和だった。
 カオリ達も現れたが、派手に騒ぐこともなく、早い時間に去っていった。
 現在(いま)、リサはテレビを見ている勇作の隣でチョコンと座っていた。それが心地よいのか彼女はもたれ掛かったまま寝息を立て始めていた。
 勇作はその方をそっと抱いてやった。儚い感触が手のひらを通じて伝わってくる。
 時が流れていく…。
 リサの長い睫毛が微かに震え、小さな胸が呼吸の旅に上下する。薄いピンクの唇が艶やかに光っている。
 勇作の唇が吸い寄せられるように重なろうとしていく…。