ずぶ濡れのまま勇作は病院の廊下を走る。枯れ野からだから弾き飛ばされる水滴が水の未知となって後に残る。面会を終えて返り始めた見舞客達の間を擦り抜けてエレベーターホールに向かう。そのうちの何人かが異質なものを見る様に勇作が走り去った方を見る。
 気持ちばかりが先を急いている。
 閉じかけたエレベーターの扉をこじ開けて勇作は五回のボタンを押す。ワイヤーが巻き取られていき、彼の乗った箱を飢えに引き上げる。扉の横に取り付けられている回数表示の数字がもどかしくカウントされていく。やがてそれは『五』を示すとゆっくりと扉を開ける。
 それと同時に面会時間の終了を告げる艦内放送が病棟を走り抜けていく。
 ナースステーションを通り過ぎて操の居る病室へと進む。途中で看護師とすれ違ったが、彼女は勇作が横を掠めていくことを咎めはしなかった。
 病室の入り口を括り、操が横になっているはずのベッドに向かう。
 だが、そこに操の姿はなかった。
 リサだ、彼女が操を連れ出した。
 勇作の心がそう告げた。
 丁度その時、一人の看護師が病室の様子を見にやってきた。
 勇作は彼女に声をかける。
「すみません、西田さんは何処に?」
 看護師は操のベッドをのぞき見て首を傾げる。
「変ねぇ、さっきまで居たんですけど…」
 看護師はそう言うとずぶ濡れの勇作を見上げる。
 勇作の中の不安が首を擡げてくる。
 そしてリサが操の排除を目的としているならば何処でそれを実行するのかを考えた。誰にも邪魔をされずに思いを遂げられる所…。 それは…、屋上だと彼の心が告げた。
 勇作は再びエレベーターホールに走る。だが、複数ある選れbエレベーターはどれもこのかいには居なかった。
 屋上はすぐ上にある。
 勇作は会談を目指して走り出した。
 濡れたスニーカーが床との摩擦を減らし、彼の足をすくおうとする。
 何度もバランスを崩しながら勇作は屋上の扉を開けた。
 そこに操が居た。
 降りしきる雨に身体を晒しながら、屋上のフェンスの向こうに操は立っていた。