リサはどこにいるのだろう?
 カオリの言葉通りなら彼女は操を排除したい筈だ。だから操の近く、病院にいるのが自然だ。けれどもそこにリサの姿はなかった。浮遊霊達の所にも、もちろん勇作の所にも、彼女の姿はない。
 勇作の知る限りリサの行く所は他にない筈だった。
 しかし、本当にないのだろうか?
 自分が知らないだけで、気付いていないだけで、彼女の行く先は他にもあるのではないだろうか?
 例えば彼女の記憶が戻り、元いた場所に戻った場合、勇作に付きまとうのを諦めて他の誰かを求めていった場合。
 だが、そのどれもが当てはまらないように勇作には思えた。
 操を永遠に排除するためにリサならどうするのだろう?
 勇作を永遠に自分のそばに置いておく為にリサならどうするのだろう?
 考えを巡らせていくと答えは一つしかないように思えた。
 どちらにしても、それは死だった。
 だが、彼女にそれをさせるわけにはいかない。操は偶然であっただけでリサにも勇作にもそれをする権利はなかった。自分自身もまだ死にたくはなかった。
 死んだ後に罪というものがあるのかは解らなかったが、リサがそれを犯すことを見過ごすこともできなかった。
 リサを止めなくては。
 勇作は急いで部屋を出て、止めてあるスクーターに飛び乗った。
 湿気を含んだ生暖かい風が夜の井町を走る勇作を包み込んでいる。心なしか雲行きも胃怪しかった。
 どこに向かえばいいのか彼には解らなかったが、ハンドルは操が入院している病院に向いていた。スロットルがだんだんと開いていく。対向車線のヘッドライトが矢のように飛び去っていき、前を行くテールライトが襲いかかるように近づいてくる。
 それでも彼はスロットルを緩めることもなく、二車線ある道路を右に左に車を交わしていく。
 遠くから雷鳴が近づいてくる。
 空に電光が走り、ゲリラ雷雨の雨が勇作の視界を奪っていく。
 濡れた路面が隙を見てはスクーターの脚を取ろうと狙ってくる。
 滝のような雨が勇作の体を容赦なく叩く。 勇作はやむを得ずスロットルを少し戻す。 いくつかの交差点を過ぎ、彼の乗ったスクーターは丘の上に建つ操の病院に着いた。
 夜の病院には人の気配が殆ど無く、街灯に照らされて建物が落とす影は不気味なほどに黒かった。既に面会時間は過ぎているのだろうか、駐車場に停めてある車もまばらだった。 勇作は夜間通用口の近くにスクーターを停めるとずぶ濡れの体のままで通用口を潜った。 中にいた警備員が彼の姿を見て怪訝そうな顔をしたが、すぐに面会用のバッチを手渡し、「面会時間はあと少しですよ」と声をかけてきた。
 けれどもその声は勇作の耳には届かなかった。