夜の街、リサは勇作と帰ってきた道を都会に向かって遡っていた。歩いてきた道を駅に向かい、ホームに入ってきた電車に乗り、地下鉄に乗り換えて先ほどの喫茶店の命に着いた。勿論、彼女は殆どの者には見えないのだから、切符を買う必要はない。ただ、来た道を遡れば良かったのだ。
 もう夜も遅い。
 喫茶店も閉店した様で灯り一つ点いていない。それでもリサは良かった。彼女は西田操というあの女の気配を感じるためにここに来たのだ。あの香水と化粧の匂い、若い男の気を引きつける様な匂いを見つけ出し、その後を追うことがリサの目的だった。
 あの女は勇作の気を引こうとしていた。
 私から勇作を奪おうとしている。
 そんなことを許す訳にはいかなかった。
 私から奪おうとする人間を許す訳にはいかなかった。
『あいつ』のように…。
 その時、リサの脳裏に一人の少年と一人の少女の顔が浮かんで、消えていった。まるで濃い霧に切れ目が入り、その向こうが一瞬透けて見えて、再び霧がかかった様に。
 リサはその場にかがみ込んだ。
(今のはなに?)
 リサは一瞬浮かんだそのイメージが何を意味するのか解らなかった。いや、解りたくなかった。何か触れてはならないものがそのイメージに含まれている様な気がしたのだ。
 そのイメージがいつのものなのか、自分にどのような関わり合いがあるのか、リサは知らなかった。それが実はとても大切なものであることを…。
 リサは暫くの間、その場で震えていたが、やがてkじを取り直して『あの女』の匂いを探し始めた。
 そうだ、『あの女』が悪いのだ。『あの女』を排除しなければ。リサは身体の奥の方からどす黒く力強く脈打つ感情がわき出してくるのを感じた。
 それと共に彼女の第六感が研ぎ澄まされていく。様々な匂いが混ざり合っているのが分離していき、やがて一つの匂いを見つけ出すことが出来た。
『あの女』の匂いだ。
 リサはその匂いの跡をたどり始めた。